空き家を取得したあと、「貸す」か「売る」かで迷う方は多いのではないでしょうか。どちらが有利かは、物件の状態や地域、ご自身の資金状況によって変わります。この記事では、それぞれの特徴と、判断するときの基準を整理します。
あわせて、判断に必要な情報の集め方、「貸した場合」と「売った場合」を同じ物差しで比べる試算の考え方、どちらにも決めきれないときの進め方まで、順を追って解説します。感覚ではなく、根拠のある数字と条件で決めたい方の参考になれば幸いです。
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「貸す」と「売る」の違い
- 貸す場合:入居者がいる間は継続して家賃収入を得られ、物件も資産として手元に残ります。一方で、空室リスク、修繕、入居者対応などの手間と、固定資産税などの維持費が続きます。
- 売る場合:売却によってまとまった資金を得られ、その後の維持費や管理の手間から解放されます。一方で、買い手が見つかるまでの期間や、価格が相場に左右される点に注意が必要です。
言い換えると、「貸す」は時間をかけて少しずつ回収する方法、「売る」は一度で回収を終わらせる方法です。どちらが正解ということではなく、物件の条件と、持ち主が何を優先したいかによって答えが変わります。
お金の入り方の違い
貸す場合は、毎月の家賃から管理費・修繕費・税金などを差し引いた金額が、少しずつ手元に入ってきます。入居が続けば長期間にわたって収入が生まれますが、空室の月はゼロになり、設備の故障などで支出が先に出ることもあります。売る場合は、売却代金から仲介手数料や税金などを差し引いた金額が、まとめて入ってきます。その後の収入はありませんが、維持費もかからなくなります。
手間とリスクの違い
貸す場合は、入居者募集、契約、家賃の管理、修繕の手配、退去時の対応など、保有している限り何らかの業務が続きます。売る場合は、売却活動の期間中に内覧の対応や書類の準備が必要になりますが、引き渡しが終われば基本的に手を離れます。ただし、売却後に建物の不具合をめぐって買主と話し合いになるケースもあるため、契約内容の確認は欠かせません。
判断するときの5つの基準
1. 地域の賃貸需要と売却相場
近隣で戸建ての賃貸募集がどれくらいあるか、家賃相場や、似た物件の売却事例はどうかを調べます。賃貸需要が乏しい地域では、貸すより売る方が現実的な場合もあります。
注意したいのは、「賃貸の募集が少ない=需要がない」とは限らない点です。戸建ての賃貸は供給そのものが少ない地域もあり、募集が出るとすぐに決まっている可能性もあります。地元の不動産会社に「この地域で戸建てを貸したら、どのくらいの期間で入居者が決まりそうか」「どんな世帯が借りに来るか」を聞くと、ポータルサイトだけでは分からない手応えがつかめます。家賃相場の調べ方は、空き家の家賃相場の調べ方|地方の戸建て賃貸の需要を見極めるで詳しく解説しています。
2. 物件の状態と修繕費
貸すには、入居者が使える状態にするための修繕が必要です。修繕費が家賃収入に見合うかを、見積もりを取って確認しましょう。現状のまま売却する選択肢もあります。
貸す場合に必要なのは、見た目を新築のようにすることではなく、雨漏りがない、水回りが使える、電気・ガス・水道が安全に使える、といった「住める状態」を確保することです。どこまで直すかの考え方は、賃貸に出す前にどこまで直す?必要最小限のリフォームの考え方を参考にしてください。一方、屋根や構造など大きな修繕が必要な物件は、直して貸すより、現状のまま「手を入れたい人」に売る方が合理的なこともあります。
3. 資金を回収したいスピード
早く資金を回収したい場合は売却が向いています。長い目で継続収入を得たい場合は、貸す方が合うことがあります。
例えば、次の物件の取得資金に充てたい、手元の預金が少なく修繕費の負担が重い、といった事情があるなら、売却で資金を確保する方が次の一手を打ちやすくなります。反対に、当面は資金に余裕があり、毎月の安定した収入を積み上げたいのであれば、貸して長く持つ方が目的に合います。
4. 管理にかけられる手間
遠方の物件や、本業が忙しい場合は、管理の手間が負担になります。管理会社に委託する場合は、その費用も収支に含めて考えます。
離れた場所にある物件でも、地元の管理会社や協力してくれる業者が見つかれば、貸して運営することは可能です。ただし、急な設備トラブルのときに誰が駆けつけるのか、といった体制は事前に決めておく必要があります。遠方物件の運営の考え方は、遠方の空き家は賃貸に出せる?離れた物件の運営の考え方で整理しています。
5. 法的な制約と出口の見通し
再建築ができない物件などは、売却しにくい場合があります。将来の売却も見据え、物件の制約を確認しておきましょう。
再建築不可の物件は、住宅ローンを使える買主が限られることなどから、一般の市場では売りにくい傾向があります。その場合は、今すぐ売るより、貸して家賃で回収していく方が現実的なこともあります。制約のある物件をどう見るかは、再建築不可の空き家は0円でも取得すべき?確認したいポイントも参考にしてください。用途地域や接道などの法的な条件は、自治体の窓口や不動産会社で確認しておきましょう。
判断に必要な情報の集め方
5つの基準で判断するには、まず材料となる情報をそろえる必要があります。次のような情報を、できるだけ同じ時期に集めておくと比較しやすくなります。
- 賃貸の情報:周辺の戸建て賃貸の家賃、募集期間、入居者層。不動産ポータルサイトと地元の不動産会社への聞き取りの両方で確認します。
- 売却の情報:近隣の似た物件の成約価格や売り出し価格。複数の不動産会社に査定を依頼すると、価格の幅がつかめます。
- 修繕の情報:貸すために必要な工事の見積もり。できれば2〜3社から取り、工事の範囲をそろえて比べます。
- 維持費の情報:固定資産税、火災保険料、管理を委託する場合の手数料など、保有している間にかかる費用です。
- 法令・権利の情報:登記の内容、接道、用途地域、境界の状況など。売却のしやすさに直結します。
査定価格はあくまで不動産会社の見立てであり、その価格で売れることを約束するものではありません。高い査定額だけを見て判断するのではなく、根拠となる取引事例も確認しておきましょう。
情報をそろえたら、この順番で判断する
- 家賃相場と売却相場を調べる。
- 修繕費の見積もりを取る。
- 「貸した場合」と「売った場合」の手元に残るお金を、それぞれ試算して比べる。
- 税金や諸費用も含めて、専門家に確認する。
このうち、最も大切なのが3つ目の「同じ物差しで比べる」ことです。家賃収入は毎月少しずつ、売却代金は一度にまとめて入るため、そのまま金額を並べても比較になりません。次の章で、試算の考え方を具体的に見ていきます。
「貸した場合」と「売った場合」の試算の考え方
比較するときは、「何年持つ前提か」を決めて、その期間に手元に残るお金を両方で計算するのが分かりやすい方法です。ここでは、考え方を示すための仮の例で説明します。実際の金額は、物件や地域で大きく変わります。
貸した場合に計算する項目
- 入ってくるお金:家賃収入(空室の期間を見込んで、満室の想定より少なめに見積もる)
- 出ていくお金:貸すための修繕費、固定資産税、火災保険料、管理手数料、入居者募集の費用、退去時の原状回復費、所得にかかる税金
- 期間の終わりに残るもの:物件そのもの(その時点で売れば、いくらになりそうか)
売った場合に計算する項目
- 入ってくるお金:売却代金
- 出ていくお金:仲介手数料、売却前の片づけや最低限の補修費、測量などの費用、売却益にかかる税金
- 期間中:売却後は維持費がかからない(その資金を別の用途に使える)
例えば、5年間持つ前提で「貸した場合」の5年間の手残りと、5年後に売った場合の見込み額を合計し、「今売った場合」の手残りと比べる、という考え方です。貸した場合の合計が、今売った場合の手残りを十分に上回り、しかも空室や修繕の不確実さを差し引いても余裕があるなら、貸す価値があると判断できます。差がわずかであれば、手間や不確実さのない売却の方が合う人もいるでしょう。
試算では、家賃や売却価格を楽観的に置かないことが大切です。家賃は相場の中でも控えめな水準で、空室期間は年に数か月あるものとして、修繕費は見積もりに予備費を上乗せして計算しておくと、実際との差が小さくなります。初期費用と収支の見方の基本は、記事の最後で紹介する関連記事も参考にしてください。
税金は「いつ・何に」かかるかを確認する
貸す場合は、家賃から経費を差し引いた所得に対して、毎年の所得税・住民税がかかります。売る場合は、売却で利益が出たときに税金がかかり、所有期間などによって扱いが変わるとされています。取得の経緯(購入か、相続か、贈与か)によっても計算が変わることがあるため、具体的な金額は税務署や税理士に確認してください。取得時にかかる税金や登記費用の全体像も、あわせて把握しておくと試算の精度が上がります。
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売るときの方法と、それぞれの特徴
「売る」と決めた場合も、売り方はひとつではありません。どの方法を選ぶかで、売れるまでの期間や手元に残る金額が変わります。
- 不動産会社に仲介を依頼する:一般の買主を広く探すため、相場に近い価格で売れる可能性があります。その分、買主が見つかるまで時間がかかることがあり、成約時には仲介手数料がかかります。
- 不動産会社などに直接買い取ってもらう:買主を探す期間がないため、早く現金化しやすい方法です。一方で、買取価格は仲介で売る場合より低くなる傾向があります。
- 空き家バンクに登録する:自治体などが運営する仕組みで、移住希望者など、一般の市場とは違う層に情報を届けられることがあります。登録の条件や、成約までの流れは自治体ごとに異なります。
どの方法でも、境界があいまい、登記の名義が古いまま、といった問題があると、売却の手続きが進みにくくなります。売る可能性が少しでもあるなら、早い段階で登記や境界の状況を確認し、必要に応じて司法書士や土地家屋調査士に相談しておきましょう。
判断を誤りやすい4つのポイント
表面的な家賃だけで「貸す方が得」と考える
家賃の金額だけを見ると、貸す方が有利に見えがちです。しかし、空室の期間、修繕費、管理費、税金を差し引くと、手元に残る金額は想像より少なくなることがあります。必ず経費を引いた後の手残りで比べましょう。
査定額の高さだけで不動産会社を選ぶ
査定額は、その価格で売れることを保証するものではありません。高い査定額で売り出したものの買い手がつかず、結局値下げを重ねて長期化する、というケースもあります。査定の根拠となる事例や、売却までの見込み期間もあわせて確認することが大切です。
判断を先送りにして、建物が傷む
迷っている間に空き家の状態が悪化すると、貸すにも売るにも余計な費用がかかります。期限を決めて情報を集め、決めきれない場合でも最低限の管理は続けておきましょう。
自分の時間と資金の事情を入れずに考える
数字の上では貸す方が有利でも、本業が忙しく管理に手が回らない、修繕費を出すと生活資金が心もとなくなる、といった事情があれば、無理に貸す必要はありません。物件の条件だけでなく、持ち主自身の状況も判断材料に含めることが、後悔しない選択につながります。
「貸す」が向いているケース・「売る」が向いているケース
ここまでの基準を、よくある状況に当てはめると次のように整理できます。あくまで傾向であり、最終的には個別の試算で判断してください。
貸す方が向いていることが多いケース
- 周辺に戸建て賃貸の需要があり、家賃相場に対して修繕費が小さく済む
- 売却相場が低く、今売っても手元にほとんど残らない
- 再建築不可など、一般の市場では買い手が限られる
- 本業の収入があり、毎月の家賃収入を長く積み上げたい
売る方が向いていることが多いケース
- 大規模な修繕が必要で、家賃で回収するのに長い年数がかかる
- 周辺に賃貸の需要が乏しく、入居者が決まる見込みが立たない
- 立地や土地の条件がよく、住みたい人や事業者から買い手がつきやすい
- 次の物件の取得など、まとまった資金を早く必要としている
例えば、駅から遠い郊外の古い戸建てで、売り出しても価格がつきにくい一方、ファミリー層の賃貸需要は一定ある、というようなケースでは、最低限の修繕で貸す方が手元に残るお金が多くなることがあります。反対に、土地としての価値が高い地域であれば、建物に手をかけずに売る方が早く確実に回収できることもあります。
「まず貸して、条件が合えば売る」という考え方
貸すか売るかは、二者択一とは限りません。まず賃貸で運用し、状況に応じて売却するという方法もあります。出口を複数持っておくことで、空室が続いた場合などにも柔軟に対応しやすくなります。
入居者がいて家賃収入が安定している物件は、賃貸中のまま投資家に売る「オーナーチェンジ」という形で売却できる場合があります。この場合、買主は家賃収入の実績を見て判断するため、空き家のまま売るより評価されることもあります。ただし、自分で住みたい人には売りにくくなるため、どちらの買主を想定するかで、売るタイミングが変わります。
貸している物件を売るときの注意点
- 入居者には住み続ける権利があるため、売却を理由に一方的に退去を求めることはできない
- 賃貸借契約の内容や、預かっている敷金の扱いを、買主に正しく引き継ぐ必要がある
- 家賃の入金や修繕の履歴を記録しておくと、買主への説明がしやすくなる
貸すと決めた時点で、「何年後に、どんな条件なら売るか」の目安を決めておくと、判断に迷いにくくなります。例えば、大きな修繕が必要になりそうな時期の手前で売却を検討する、空室が一定期間続いたら売却に切り替える、といった基準です。
よくある質問
0円で取得した空き家でも、売れば利益になりますか?
売却価格から、取得時や売却時にかかった費用、修繕費などを差し引いて利益が出れば、その分は手元に残ります。ただし、利益には税金がかかる可能性があり、取得の経緯によって計算方法が変わることもあります。0円で取得したから全額が利益になる、とは考えず、税理士などの専門家に確認したうえで試算しましょう。
貸すか売るか決まらないうちは、どうしておけばよいですか?
判断を保留している間も、建物の傷みは進み、固定資産税などの維持費はかかります。換気や通水、雨漏りの点検、庭木の手入れなど、最低限の管理は続けておきましょう。管理が行き届かない状態が続くと、近隣とのトラブルや、自治体からの指導の対象になることもあります。
修繕してから売る方が高く売れますか?
修繕費をかけた分だけ売却価格が上がるとは限りません。買主が自分好みに直したいと考える場合は、現状のまま安く買える方を好むこともあります。修繕する前に、不動産会社に「直した場合」と「現状の場合」の売却見込みを聞き、差額が修繕費を上回るかどうかを確認しましょう。
一度貸したら、売るのは難しくなりますか?
賃貸中でも売却は可能です。ただし、買主は投資目的の方が中心になり、自分で住みたい方には売りにくくなります。退去後に空き家として売る方法もありますが、入居者の退去時期はオーナーの都合では決められません。将来売る可能性があるなら、契約の形態も含めて、不動産会社や専門家に相談しておくと安心です。
貸すか売るかを、誰に相談すればよいですか?
相談先は、内容によって分けるのが効率的です。家賃相場や売却相場、入居者の見込みは地元の不動産会社、税金の計算は税理士や税務署、登記や名義の問題は司法書士、境界の問題は土地家屋調査士、用途地域や建築の制限は自治体の窓口が主な相談先になります。1社や1人の意見だけで決めず、複数の立場から意見を聞いておくと、偏りのない判断がしやすくなります。
相談するときは、物件の所在地、建物の築年数や状態、登記の内容、これまでにかかった費用などをメモにまとめて持っていくと、話が具体的に進みます。
まとめ
貸すか売るかの判断には、地域の需要、修繕費、資金の回収スピード、管理の手間、法的な制約の5点が関わります。まずは賃貸・売却・修繕・維持費・法令の情報をそろえ、「何年持つ前提か」を決めたうえで、貸した場合と売った場合の手元に残るお金を同じ物差しで比べましょう。どちらか一方に決めきれない場合は、まず貸して、条件がそろったら売るという選択肢もあります。数字で比較するための費用の見方は、空き家0円取得は本当に儲かる?初期費用と収支の目安、税金の全体像は、空き家を取得したときにかかる税金と登記費用まとめをご覧ください。
ゼロイエでは、空き家(主に戸建)を0円で取得し、貸すか売るかで収益を手にするための知識とノウハウを、全国的な会員組織を通じて学べる仕組みを提供しています。詳しくは会社概要やゼロイエとはのページをご覧ください。
あわせて読みたい(空き家起業家®椙田拓也のブログ)
【ご注意】
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の物件・個人に対する税務・法律・会計上の助言ではありません。税金・登記・法令・補助制度などは、物件の所在地や個別の状況、制度改正によって内容が異なります。実際の取引や運用にあたっては、税理士・司法書士・弁護士・不動産の専門家などにご相談のうえ、最新の公的情報をご確認ください。また、本記事内の数値は一般的な例や仮の試算であり、収益や成果を保証するものではありません。
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